オーガニック食品に貼付されている「有機JASマーク」、皆さんも一度は目にしたことがあると思います。
有機JASマークは、太陽と雲と植物をイメージしたマークです。農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料、畜産物及び藻類に付けられています。
農林水産省HP
このマークは日本の認定機関が厳しい審査を行い、基準を満たした生産者や事業者に与えるものです。
この「有機JASマーク」がなければ、「オーガニック」や「有機」と名乗ることができません。
この基準を制定するまでに至るには、戦後の食糧難の時代から様々な問題が起こり、環境問題や食の安全に対する課題を認識し、それに取り組んだ人々の努力がありました。
オーガニックを取り入れたい消費者にとって、この「有機JASマーク」は「信頼の証」といえるでしょう。
この記事では、「有機JASマーク」について詳しく解説します。
有機JASマークができるまで ~世界の歴史~
オーガニックというと近年発明された農法のように捉えられることもありますが、はるか昔、農薬や化学肥料のない時代に行っていた農法です。
原点回帰ともいえるオーガニックが近年、再注目され、日本では「有機JAS規格」が制定されました。
「有機JAS規格」が制定されるまで、日本はどのような歴史をたどってきたのか、世界各国の動きと比較しながら日本の動きに迫ってみましょう。
欧州でのオーガニック発展の歴史
欧州では、1940年代に第二次世界大戦が終焉に向かう頃、食糧難に陥る地域がありました。
欧州各国では農地拡大・食糧増産のために、化学肥料や農薬を大量に用いた農法が拡大しましたが、地下の汚染や食料余剰などの問題が起こっていました。
このような問題の反省から、欧州では「持続可能な環境保全型農業」つまり有機農業へシフトしていったのです。
1972年に国際的なオーガニック認定機関としてパリで生まれたIFOAM(オーガニック農業運動国際連盟)は、現在、111か国以上、700もの団体が加盟している大きな団体です。
現在、欧州におけるオーガニック食品の売上総額は、世界第一位の米国と並んで大きな市場となっています。
アメリカでのオーガニック発展の歴史
第二次世界大戦後のアメリカも、欧州と同様に食糧難に陥り、化学肥料や農薬を大量に使用した農法が展開されていました。
非効率的な有機農業に対しては批判的だった中、レイチェル・カールソンが「沈黙の春」という本を出版し、化学肥料や農薬を大量に使用した農作物を食する消費者や環境への影響を述べ、市民や政策立案者からも支持を得ました。
その後も発がん性のある添加物の使用や遺伝子組み換え食品の問題などが顕在化し、有機農業に対する政府の支援を要求する世論が高まりました。
そして1990年、「オーガニック食品生産法」が制定され、国家としてオーガニック食品を拡大・保護していく立場を明確にしていきました。
現在、公共機関や民間団体など約40以上のオーガニック認定機関が設立されています。
現在ではアメリカは世界第一位のオーガニック市場となっています。
日本でのオーガニック発展の歴史
日本では、欧州やアメリカと同様に戦後の食糧増産のために化学肥料や農薬の使用が促進されていきました。
しかし、水俣病や四日市ぜんそくなどの公害問題や、光化学スモッグなどの環境問題が表面化し、さらには森永ミルクヒ素事件やカネミ油症事件などの食の安全性を揺るがすような事件が勃発してしまいます。
そのような中、農協職員であった一楽照雄が、当時の化学肥料や農薬漬けになっている農地や、大量生産に後押しされた農業の近代化に疑問を持ちました。そして、自然生態系の破壊につながることを危惧し、「有機農業」という言葉を生み出し、活動を始めたのです。
1992年に農林水産省が「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を指針として制定しましたが、「有機」という言葉もあいまいで、明確な基準がなかったため、実際には「有機」や「オーガニック」という表示がついていても、中身は様々なもので、消費者に混乱を与えるような状況でした。
そこで、2000年に農林水産省がガイドラインを制定し、「有機JAS」の規格が制定されました。
オーガニックの認定を得たい生産者から申請があると、認定機関が審査をし、認定を行います。
そこで認定されたものだけ「オーガニック」「有機」と表示することができます。
統一ガイドラインの策定
このように世界各国では、オーガニック需要の高まりに応じて、オーガニックの定義づけ・認証が行われてきました。
しかし、認定機関の乱立により、オーガニックの定義が定まらない状態が続いていました。
そこで1999年に、FAO(国際連合食料農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で設立した政府間機関「コーデックス委員会」にて、オーガニックに対するガイドラインが策定されました。
「消費者の健康保護」と「食品の公正取引」を目的に、国際食品規格(コーデックス規格)の策定を行っています。
このガイドラインを準拠することにより、世界基準での同等性を主張できることとなりました。
有機JASマークの種類と基準
有機JASマークがついている食品は大きく分けると次の4つになります。
- 有機農産物
- 有機畜産物
- 有機加工食品
- 有機飼料
有機農産物
- 種付け前2年以上(多年草の場合は収穫前3年以上)、農薬や化学肥料は使用しないこと
- 遺伝子組み換えの種苗は使用しないこと
- 有害動植物の防除は、農薬に頼らず、他の方法で行うこと
- 周辺から使用禁止資材が飛来・流入しないように必要な措置を講じていること
有機畜産物
- 飼料は主に有機飼料を与えること
- 野外への放牧などストレスを与えずに飼育すること
- 抗生物質等を病気の予防目的で使用しないこと
- 遺伝子組み換え技術を使用しないこと
有機加工食品
- 化学的に合成された食品添加物や薬剤の使用は極力避けること
- 原材料は、水と食塩を除いて、95%以上が有機産業物、有機畜産物又は有機加工食品であること
- 薬剤により汚染されないよう管理された工場で製造を行うこと
- 遺伝子組み換え技術を使用しないこと
有機飼料
- 原則として有機農産物と同じように作られていること
- 使用が認められた原料だけを配合すること
このように、有機JASマークは厳しい基準をクリアした農産物や農産物加工食品のみ貼付しているので、安心・安全な食品を購入したい消費者にとって信頼性のある目印になります。
有機JAS認定をうけるまでの手順
有機JASの認証・登録は、国から認可を受けた機関・団体が実施することになっています。
生産者が認定を受けるには、以下の7つの手順を踏まなくてはなりません。
- 組織作り
- 栽培指針作り
- 図面作り
- 格付記録作り
- 認定の申請
- 実地検査と判定
- 認定後の業務
①組織つくり
まずは、有機農業の内容を記録して管理していく「生産管理担当者」や、JASマーク貼り付けを管理する「格付担当者」の設置を行います。
また、管理方針や年間生産計画の作成などを内容とした「規定」を作成しなくてはなりません。
②栽培指針作り
栽培指針作りとは、「日本農林規格(JAS規格)」に則り、栽培ルールを書面化することです。
基準を満たした圃場で栽培することや、肥培管理や病害虫・防除草に使用する物質を管理することや、収穫から出荷工程で非有機作物との混合や農薬にさらされる可能性がないかなどを細かく管理します。
③図面作り
圃場やその周辺の地図、水系図などの図面を作成します。
④格付け記録作り
農作物の格付日、格付量、格付責任者名などの記録を作成します。
また、認定後毎年6月までに、格付実績を集計し、登録認定機関に報告しなくてはなりません。
⑤認定の申請
申請する認定機関に、①~③で作成した農業概要を提出します。
まずは書類審査が行われ、基準を満たしていれば、次の実地検査へ進むことができます。
⑥実地検査と判定
実地検査では、聞き取り審査や現場確認、書類監査(記録簿)に虚偽がないか検査されます。
検査結果は検査員により精査され、判定担当者が認定の合否判断を下します。
⑦認定後の業務
認定されれば、認定機関より「認定証」が発行され、JASマークを貼付して販売できるようになります。
認定取得後も毎年、年度計画書や生産・格付管理記録などの提出をしなくてはなりません。
その後も定期的な認定機関からの監査を受けることになります。
このように、認定を受けるためには、生産者は栽培方法や圃場環境の整備などに加え、審査を通すための事務手続き書類の作成にも時間を費やすことになり、大きな負担となっています。
こんなに厳しい条件をクリアするには、生産者の方は大変ですね。
生産者が有機JAS認定を受けて、得られるメリットは何ですか?
次に、有機JASマークをつけることによって、生産者にとってどのようなメリットがあるのか解説します。
生産者が有機JASマークをつけるメリット
有機JASマークをつけて販売することのメリットは以下の3点です。
・作物の信頼性を高める
・付加価値が生まれる
・輸出する際に「オーガニック」と表示できる
作物の信頼性を高める
有機JASマークの認証検査は他の認証と比べて非常に厳しいと言われています。
認定された後も、毎年登録認定機関により検査が行われ、もしも有機JASマークの信頼を傷つけるような違反があった場合、認定取り消しや罰金などの罰則が科せられることもあります。
生産者は、それだけの覚悟と責任をもって栽培しなくてはなりません。
有機JASマークが貼付されていることによって、厳しい基準をクリアしたことの証明になり、食の安全を求める消費者にとって、信頼性を高める目印になっています。
付加価値が生まれる
「オーガニック」「有機」と名乗ることによって一般の野菜との差別化がはかれ、有機栽培にこだわる消費者にとって、価値の高いものになります。
有機栽培は、農薬を使わずに農作物を病害虫から守ったり、手作業での雑草対策など、慣行農業に比べて手間がかかります。
その上、有機JAS認定を受ける際の、認定員の旅費や、有機JASマークの印刷代などの経費も毎年かかります。
オーガニックであるという付加価値がつけば、価格が一般の野菜より高くても消費者は納得して購入してくれます。
輸出する際に「オーガニック」と表示できる
各国それぞれ独自の有機制度があり、有機制度が同等であると合意していない国に輸出する場合は、相手国の有機制度による認証を受ける必要があります。
しかし、両国の有機制度が同等であると合意すると、日本国内で有機JAS認定を受けた有機農産物等に「オーガニック」と表示して輸出できます。
・イギリス
・アメリカ
・スイス
・EU諸国
・カナダ
・台湾
まとめ
普段、何気なく目にしている有機JASマークが作られた背景には、国内で食の安全性を求める国民の声から始まり、現在の制度へと発展していきました。
日本における有機農業は、欧米に比べて遅れていると言われていますが、国や生産者の方々は、様々な取り組みを続けています。
有機農産物に関する国の制度は、まだまだ今後も変容していくことでしょう。
消費者である私たちひとりひとりが、さらに有機農産物への理解を深め、安心・安全な食材選びに、有機JASマークを活用していきましょう。